アトピー性皮膚炎とは
かゆみの強い湿疹が、良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性的な疾患です。
乳児湿疹として顔から発症することが多く、その後は首、肘の内側、膝の裏側などの関節部分に湿疹ができやすく、全体に皮膚は乾燥していることが多いです。
乳児期からの正しいスキンケアや外用療法により、症状を最小限に抑え、早期に改善することもできる疾患ですので、早期に治療を開始することがとても重要です。
症状の程度にはかなり幅がありますが、軽症だから様子を見るのではなく、症状が軽いうちに治療することが大事です。
治療は保湿とステロイド外用剤が基本となり、特にステロイド外用剤に対して不安をお持ちの親御さんもいらっしゃいますが、安心して治療していただけるように副作用や注意点などもきちんとご説明させていただきます。
症状
- かゆみを伴う
- 患部が赤みを帯びる
- ジュクジュク湿っている
- 掻くと液体が滲み出す
- 患部の皮がむける
- 症状が長引くと皮膚がゴワゴワと硬くなり、肥厚する
- 顔や身体の湿疹が左右対称に現れやすい
- 主に、額、目・口・耳の周囲、首、わきの下、肘や膝の裏にできやすい
アレルギー疾患は遺伝的な素因があると発症しやすいことから、本人が他のアレルギー疾患を発症したことがある場合、アトピー性皮膚炎を発症しやすくなります。また、血縁者がアトピー性皮膚炎・気管支喘息・アレルギー性鼻炎・食物アレルギーを発症したことがある場合も発症するリスクが高くなります。
乳児期(2歳未満)
頬を中心とした顔・頭や首のまわり
頬を中心とした顔や頭に発症することが多いです。患部が乾燥してカサカサし、赤みを帯びます。かゆみを伴うことも多く、掻いてしまって皮膚に微細な傷ができるとジュクジュクした湿疹が現れます。離乳期には頬や口周辺にこうした症状が起こりやすい傾向があります。
悪化した場合、患部が他の部位にも広がり、首、胸、背中、手足に湿疹が生じることもあります。
幼児期~学童期(2歳~12歳)
首のまわり・わきの下・肘の関節(内側)・膝の関節(裏側)・手首・足首
顔の湿疹は減っていきますが、首、肘や膝の裏側、手首などに湿疹が生じやすくなります。かゆみが強いので、掻き壊して皮膚がゴワゴワと硬く、分厚くなる苔癬化を起こします。
思春期・成人期(13歳以上)
主に顔や首のまわり、胸・背中などの上半身
顔や首を含む上半身に強いかゆみを伴う湿疹が生じます。
治療
湿疹や皮膚の状態などに合わせて、外用薬・内服薬・注射剤・保湿剤を組み合わせた治療を行います。アトピー性皮膚炎は、症状によって、軽微・軽症・中等症・重症の4段階に分けられており、段階に合わせた適切な治療が必要です。また、治療で状態が変化したら、治療内容も適宜変更していきます。保湿は皮膚のバリア機能を正常にするために不可欠で、治療と並行して行います。また、治療によって皮膚状態が改善してからも、しっかり保湿のケアを続けることで皮膚の良好な状態を維持できます。保湿は治療だけでなく、再発予防にも不可欠です。
外用薬
過剰な免疫反応を抑えて、かゆみや炎症を抑制します。できるだけ短期間に症状を改善し、副作用のリスクを抑える処方を行っていますので、医師の指示を守って使用してください。
ステロイド外用薬
過剰な免疫反応を抑え、炎症を効果的に鎮める効果が期待できます。なお、近年になって、症状が落ち着いてからも少量のステロイドを使って再発を抑制するプロアクティブ療法なども登場し、より効果の見込める治療が可能になってきています。
免疫抑制外用薬
ステロイドとは異なった作用機序で免疫反応を抑える治療薬です。副作用が懸念されるなどでステロイドを使えない場合に検討されます。
内服薬
抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬
かゆみは強い不快症状で、無意識に掻いてしまい皮膚のバリア機能が低下し、症状を悪化させるケースも少なくありません。抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬でかゆみを軽減し、掻かないようにすることで悪化を防ぎます。
ステロイド内服薬
炎症やかゆみといった免疫反応を短期間に抑制する効果が期待でき、外用薬では十分な効果を得られない重症例に処方されます。副作用のリスクを抑えるために長期間の服用はできません。医師の指示通りに服用してください。
免疫抑制薬
16歳以上に可能な治療です。強い炎症を抑制する高い効果が期待できますが、最長でも3ヶ月服用したら休薬となります。高血圧や腎機能低下を起こす可能性があり、慎重な経過観察が必要です。
注射薬
外用薬や内服薬による治療では十分な効果を得られない場合や、強い炎症が全身の広範囲に及んでいる場合に検討されます。炎症の原因になっている過剰なインターロイキンの働きを抑える薬を注射する治療で、2023年9月、生後6ヶ月からこの治療が可能になっています。この治療は単独で行うことはなく、ステロイド外用薬による治療や免疫抑制外用薬による治療と併用して行われます。当院でも可能ですので、検討したいとお考えの場合にはご相談ください。
保湿剤
乾燥によって皮膚のバリア機能は低下します。アトピー性皮膚炎は、ドライスキンが悪化や再発のトリガーになりますので、しっかり保湿して皮膚の湿度を適切に保つことは症状の改善や再発防止に不可欠です。
現在は、ヘパリン類似物質といった強力な効果が期待できる保湿剤があり、クリーム、ローション、軟膏など、部位や状態に合わせた使いやすいタイプを選択できます。
スキンケア
清潔を保つ、刺激を減らす、汗ばんだらこまめに拭いて肌着を着替えさせる、しっかり保湿することを心がけましょう。
入浴時には、低刺激の石鹸をよく泡立て、手のひらに泡をとって優しく洗い、しっかりすすいでください。お湯はぬるめの温度にしましょう。お風呂から上がったら、乾いた清潔なタオルで水気を吸い取ります。擦らないように注意してください。水気が取れたら、すぐに保湿することが重要です。入浴前に保湿の準備をしておくと、速やかにケアできます。
原因の除去
刺激を減らすことが、悪化や再発防止に役立ちます。ハウスダストを減らすためのこまめな掃除、刺激の少ない綿などの肌着や寝具を選ぶ、洗濯は化学物質の少ない洗剤を使用し、注水でしっかりすすぐなどを心がけましょう。
なお、ウールは特殊な処置を行わない限り、チクチクした強い刺激を起こします。肌に直接触れない場合でも布を通じて刺激が肌に伝わってしまう場合もありますので注意してください。
上手な薬の塗り方
適量を指にとり、患部に優しく塗り広げ、乾燥を防ぐための保湿剤を併用し、塗り終わったら浸透するまでしばらく放置します。
皮膚は部位によって吸収率が変わり、特に吸収率が低いのは手のひらや足の裏です。皮膚が柔らかくなり吸収率の高くなる入浴後、すぐに塗ると高い効果が期待できます。
当院では、薬や部位ごとの適量を具体的にわかりやすくお伝えしていますので、その指示を守って行ってください。疑問点がありましたら些細なことでも遠慮せずにご質問ください。